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2003年2月15日/第6回
通勤電車の戦い
朝の通勤電車。そこは戦場である。自分以外は全て敵、殺るか殺られるかの世界である。今日も一人の乙女が過酷な戦場へ乗り込んでいった…。
目的は座席である。運良く席を獲得したものは勝者のみに与えられる特権「目的地までの睡眠」が与えられる。この特権の為に多くの兵士たちは戦うのだ。私の乗り込んだ駅から目的地である新宿までの間、大きな戦局が三つある。


第1の戦局は『新百合ヶ丘の戦い』である。この戦の舞台である新百合丘駅では急行と準急が待ち合わせをする。つまり、準急に載っていた兵士たちが、たかが4分早く新宿に着きたいがために新百合ヶ丘で急行新宿行きに乗り換えるのだ。そして準急で座っていた兵士たちが残していった空席を巡って壮絶なバトルが繰り広げられるのである。
第2の戦局は『登戸の合戦』。しかし登戸駅は降りる兵の数が非常に少ないので、入念な下調べをして、この駅で降りる兵士の顔を覚えておかないことには勝算はない。かなりの難所ということになる。
最後の戦局『代々木上原の乱』。代々木上原では半数近い兵士が降りるので、勝利を収めるのは比較的容易だが、代々木上原は新宿の一つ手前の駅なので、座ったと思ったらすぐ新宿に到着してしまい、眠ってる場合ではないのである。とすれば、ここはやはり勝者の特権を最大限に活用できる『新百合ヶ丘の戦い』で何としてもキメておきたい。ここで城(席)を獲得できれば新宿まで30分も睡眠がとれるのである。
勝負は戦場(電車)に乗り込んだ瞬間から始まっている。いつも新百合ヶ丘で降りる兵士を探し出し、そいつの前を陣取ることができれば、そいつが気まぐれを起さない限りほぼ確実に席を獲得することができる。いたって簡単な作戦ではあるが、実戦はそんなに甘いものではない。降りる兵士はだいたい、すでに前の駅から乗っている他の兵士にマークされているのだ。


しかし、ここで焦ってはいけない。五感をとぎすませ、目一杯の集中力で辺りを注意深く見回す…。何かいつもと違うことはないか? ノーマークの兵士で降りそうなヤツはいないか?
私は見逃さなかった。ふと目を止めた女学生が今まで見ていた単語帳をカバンにしまったのだ。あいつは降りる! 間違いなく降りると確信した。私は、今まで数多くの修羅場をくぐり抜けてきた中から、気が着いた法則が2つある。一つは『若い男は電車が止まってドアが開いてから素早く降りる法則』。もう一つは『おばさんと女学生は早めに支度をする法則』である。単語帳をしまった相手は女学生。ヤツも例外ではないはずだ。私は何喰わぬ顔で、しかし素早く確実に女学生兵の斜め30度あたりに立った。この『斜め30度立ち』も重要なポイントである。これは私が長年の戦の中からあみだした秘密テクだが、読者の皆さんだけに特別に伝授しよう。


「斜め30度あたりに」というのはつまり、「真正面に立たない」ということだ。もし目標の兵士の真正面に立ってしまうと、席を立とうとしている兵士の邪魔になってしまうからである。自分が右によけたら相手も右、左によけたら左、また右によけたら…。などとコントの様な事をやっているうちに、影に潜んでいた忍者に席を取られてしまいかねない(この場合、忍者はおばさんの“くノ一”が多い)。だからあらかじめドアに近い方に、降りる兵士の通り道を作ってやると、すんなりそちらを通って戦場を後にしてくれるのだ。しかし、ここまでやってもまだ安心してはいけない。ヤツが降りる駅を勘違いしていたり、ただのフェイントの場合もあるのだ。念には念をいれなければならない。女学生をマークしつつも辺りにアンテナを張り巡らせ、新たなターゲットを探す。なにしろ、ここは生きるか死ぬか(座るか立つか)の戦場なのだから。
しばらくすると女学生は振り返り窓から外を眺め出した。どうやら勝利を確信してもよさそうだ。やがて電車は新百合ヶ丘に着き、ガラリと音を立てドアが開く。しかし、女学生は座ったまま。
「しまった! トラップだ!」


なんてことだ! この私がこんな女学生ごときにひっかかるなんて! しかし悔やんでいる暇はない。あわてて辺りを見回す。
「だっ、誰か降りてくれっ! これから30分も眠らずに立っているなんて拷問だっ!」
無情にも反対側のホームに急行電車がすべりこんできた。
「もうダメだっ!」
そう思った瞬間、私の背後の席にいた若い男が疾風のように電車を降りた。空席に向かって溢れた兵士が2〜3人歩み寄る。今だ!
「ムーンウォーク!」


説明しよう。私のあみ出した『忍法ムーンウォーク』は、「普通にくるりと振り向いてから歩き出し、また向き直ってから座るまでの時間を短縮し、後ろ向きのまま後方に注意をはらい、「スポッ」っと座るという、はたからみたらかなり面白い座り方で、やっている本人も結構恥ずかしいのだが、そんなことは言っていられないよ」という術である。
ちなみに、この術を使ったあとは恥ずかしいのですぐに眠たフリをする。それに、いくら真剣勝負とはいえ、数秒の差で拷問にあっている兵士と目をあわせるのはやはり辛いのだ。
今日は幸い勝利を納め座ることは出来た。しかし明日からもまた戦いの日々が待っている。タヌキ寝入りをしながら、私は新たな戦術を考えるのだった。

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