変身
更新日:05.06.19 |
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2003年1月1日
/第2回
電車の中の飲食
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電車の中で物を食べている人を見かける。だいたい駅の売店で売っている物が多いのだが、先日見かけた外人さんは通常とはだいぶ違っていた。
その日知人の家で弁当を食べる約束をしていた私は、小わきにオニギリと煮玉子を抱え東急多摩川駅で電車に乗った。空いている席に腰掛け弁当が「寄り弁」になっていないかチェック、大丈夫だ。一安心して座り直す。フト前を見ると向かい合わせに真ん丸いメガネをかけた白人の外人さんが座っている。どうも街で外国人の方を見ると観察してしまう。悪いクセだ。別にどうってことはないのだが(どこから来たのかなー)などと考えてしまうのだ。私は何気なく服そうや持っている教材らしきものから
「きっと留学生だ。がんばってるんだナ」 などと勝手な想像をしていた。
電車がうなりスピードを上げ走り始めるとその留学生らしき外人は、大きなリュックの中からゴソゴソと半透明のタッパーを取り出した。タッパーの中には白米が入っている、まさかここでランチを食べる気か? チャンス! 珍しいものが見れそうではないか! 私は気付かれないように観察を始めた。(気付かれないように
と言っても車内のほとんどの客は見ているのだが)彼は器用に股の間に缶のウーロン茶を挟み込み、そろえたヒザの上にタッパーを置いた。そして両手を合わせ、合わせた手の親指と人さし指の間に割り箸を挟み、小さな声で言った。
「イタダァキマス」
(えらいッ!)私は心の中で叫んだ。なんて礼儀正しいんだ!(ここが電車の中であることは抜きにしたい)彼が車内の客の視線に惑わされず器用に箸を使い米を口に運ぶその様は、ここが走行中の電車の中だということを忘れさせるのに十分だった。私は彼を見守りながらあることが気になり始めていた。おかずがない…
そう、彼は白米だけを食べていたのだ。あれでは栄養に偏りがありすぎるではないか。私は真剣にこの煮玉子を差し出そうかどうしようか迷っていた。すると彼は「心配御無用」とばかりにリュックから何か小さな包みを出し、高い鼻を近付けて匂いをかぎ「ニッ」と笑ってタッパーの中に出した。コロッケのようだ。(なーんだ。おかずあるじゃないの)などと思っているうちに目的地に着いたので、降りるフリをしながら彼に近付きタッパーの中を覗き込んで愕然とした。(がんもどき…?)
英訳するとレア・イミテーションキャンサーであろうか? そんなことはどうでもいい。先程私がコロッケだと思っていたものは生のがんもどきだった。普通がんもどきといえば、おでんや煮物に使うものだ。生で食べるものではない。知らないのか? っていうかそれ味付いてるの?? うまいの??? しかし彼はうまそうに食っていた。あれで良かったのだ。
最後まで見届けることが出来なかったことが残念でならい。数分後、彼はきっと「ゴチソサマ」と言っていたことだろう。その日の昼食、私は彼に習って両手を合わせて「イタダァキマス」と言ってみるのだった。
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